研究系及び研究施設の現状 133
高 須 昌 子(助教授)
*)
A -1)専門領域:物性理論、計算機シミュレーション
A -2)研究課題:
a) 化学ゲルの生成のシミュレーション
b)ランダムボゾン系の量子モンテカルロ計算とアルゴリズムの開発 c) D NA の電気泳動のダイナミクス
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) ゲルの微視的構造の研究は、盛んに行なわれている。しかし、実験的手法による研究では、微視的構造の揺らぎなど は平均化されてしまう。実際にゲルの微視的構造は分子単位の揺らぎを持ち、かつ3次元的に分布しているため、原 子間力顕微鏡などでも直接見ることが難しい。我々は、この問題に対してコンピューターシミュレーションを用い てアプローチしている。ラジカル反応による化学ゲルの生成を、モノマー、ラジカル、リンカーを粒子として取り扱 い、ラジカルとモノマーが接触することで、重合が行なわれるモデルを構築した。このモデルにより、シミュレーショ ンで3次元網目構造をもつ、高分子のネットワークを形成させ、モノマーやラジカルなどの密度を変えることで、ど のように構造が変化するかを調べている。このシミュレーションから、ゲル化の相図やゲルの構造の違いなどを得 た。
b)多孔質媒質中での ヘリウムの超流動現象は、媒質の乱れが臨界現象に影響する例として、興味深い。この様な系に ついては、boson Hubbard modelを用いて量子モンテカルロ計算により議論されている。しかし、実際の計算では、臨 界点付近等で、サンプル間の相関時間の増加に伴い、効率が低下する。L oop A lgorithm(L A )は、局所的な確率過程に より、非局所的な状態の遷移を行うモンテカルロ法の一種である。この手法は、上記の困難を克服する物として、ス ピン系等の量子モンテカルロ計算に広く用いられている。L A のボゾン系への適用は、現在の所、ハードコアボゾン の様な、非常に制限された系についてしか、実行されていない。本研究では、化学ポテンシャルによって、粒子数があ る程度制限された系に限定する事で、ボゾン系へのL A の適用を行った。結果としては、従来の方法ではサンプリン グが困難であった低密度領域について、L A では効率の良いサンプリングが実行された。これにより、精度のよい計 算が可能となった。
c) 高分子溶液中での D NA のダイナミクスを明らかにするため、C urtissらが提案した高分子鎖のからみあいの効果を セグメントの粘性係数に繰り込んで、高分子鎖の接線方向(レプテーション的な動き)と法線方向でセグメントの粘 性係数をかえたモデルを電気泳動に適用し、ブラウニアン・ダイナミクスを行なった。D NA 鎖の硬さを考慮し、単位 セグメントの大きさを持続長より小さくすることによって、これまで理論的に説明できていなかった、高濃度の高 分子溶液中でD NA が電場方向に伸びたまま泳動していくという現象(I型運動)を再現した。I型運動が起こるのに、 DNA 鎖が十分長いこと、 高分子溶液のメッシュサイズが小さくて、鎖長が長いことなどが必要であることを明らか にした。
134 研究系及び研究施設の現状 B -1) 学術論文
M. HASHIMOTO and M. TAKASU, “Boson Localization on the Superfluid-Insulator Transition by Quantum Loop Algorithm,” Prog. Theor. Phys. Suppl. 138, 529 (2000).
N. URAKAMI, M. MAI, Y. SANO and M.TAKASU, “The effects of chondroitin sulfate on the tobacco mosaic virus configuration,” Prog. Theor. Phys. Suppl. 138, 390 (2000).
H. NOGUCHI and M. TAKASU, “Linear-shaped motion of DNA in concentrated polymer solutions under a steady field,” J. Phys. Soc. Jpn. 69, 3792 (2000).
B -4) 招待講演
高須昌子 , 「ポリマーとゲルの秩序形成のモンテカルロ・シミュレーション」, 東京医科大学セミナー, 東京 , 2000 年5月 .
B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本物理学会名古屋支部委員(2000-01).
C ) 研究活動の課題と展望
我々は、モンテカルロシミュレーションを中心に、コンピュータを用いて、物性物理学の問題に取り組んでいる。研究課題a)-c) のうち、b)のランダムなボソン系の研究はほぼ一段落した。来年度は、ゲルおよびポリマーの研究を進める予定である。特に a)を重点的に進める予定である。
*)2000年 4月 1日着任